オメガ3指標が示すもの ―「摂取量」から「体内状態」へ進化するオメガ3評価
麻布大学名誉教授・守口徹先生から学ぶ、赤血球膜EPA+DHA(オメガ3指標)の意義と活用可能性
EPA・DHAをはじめとするオメガ3脂肪酸は、健康維持に欠かせない栄養素として広く知られています。 一方で、オメガ3の評価はこれまで摂取量や食事調査を中心に行われてきましたが、それだけでは実際の体内状態を十分に把握することはできません。
近年、体内のEPA・DHAレベルを評価する指標として赤血球膜EPAとDHA割合を示す「オメガ3指標」が注目されています。 赤血球膜中の脂肪酸を測定することで、一定期間のオメガ3脂肪酸摂取量や脂肪酸バランスの体内状態を把握できることから、研究分野のみならず、栄養評価や健康管理への活用も期待されています。
本記事では、麻布大学名誉教授であり、赤血球膜中の脂肪酸測定キットの開発に携わる守口徹先生に、赤血球膜EPA+DHAの測定意義から、栄養評価、研究開発、ヘルスケアへの応用可能性までを解説していただきます。
本記事は、麻布大学名誉教授の守口徹先生よりご提供いただいた原稿をもとに、当社にて編集・構成しています。
近年、オメガ3脂肪酸の研究が進む中で、摂取量だけでなく実際の体内状態を評価するバイオマーカーへの関心が高まっています。ここでは、オメガ3指標の概要と、その意義について解説いただきました。
体内のEPA・DHAレベルを評価する指標として知られる「Omega-3 Index」(以下、オメガ3指標)は、オメガ3脂肪酸研究者であるビル・ハリス博士(Dr. William S. Harris)らによって提唱されました。
オメガ3指標は、赤血球膜中の脂肪酸に占めるEPAとDHAの割合を示す指標であり、生体内のオメガ3脂肪酸状態を評価する指標として活用されています。
脂質栄養学領域では、生体におけるオメガ3脂肪酸の有用性に関する研究が数多く報告されています。しかし、それらの知見が必ずしも日常の食生活改善に十分活用されているとは言えません。
その結果、疾患には至らないものの健康課題を抱える、いわゆる未病状態にある人が少なくないことも指摘されています。
オメガ3脂肪酸の機能性に関するエビデンスを有効に活用するためには、現在の体内状態を把握することが重要です。その評価手法の一つとして、オメガ3指標への関心が高まっています。
オメガ3指標を理解するうえで重要なのが、なぜ評価対象として赤血球膜が用いられているのかという点です。体内のオメガ3状態を評価する際には、測定対象となる生体試料の特性を理解する必要があります。
生体内の状態を把握するための生体試料には、毛髪、口腔内細胞、血液(血漿・赤血球)、尿、糞便などがあります。その中でも、食生活における脂質の摂取状況を評価するためには、血液が最も有力な生体試料と考えられています。
ただし、血液中でも血漿は直近の食事による脂質の消化・吸収の影響を受けやすく、長期的な食生活の実態を反映することはできません。
一方、赤血球の寿命はヒトで約120日であることから、赤血球膜中の脂肪酸組成は過去3〜4か月の食生活を反映していると考えられています。そのため、赤血球膜は長期的な脂肪酸バランスを測定・評価するための生体試料として活用されています。
日本人における赤血球膜中のEPA+DHA%(オメガ3指標)やオメガ6/オメガ3比の適正値・目標値に関する報告は、現時点では限られています。
一方、欧米では赤血球膜中のEPA+DHA割合が循環器系疾患の評価指標の一つとして用いられており、4%未満を「高リスク層」、4〜8%を「中間層」、8%以上を「低リスク層」と位置づけています。
近年の日本における食生活の欧米化を踏まえると、これら欧米の数値と日本人の数値との間に大きな差異はない可能性があると考えています。現在、その点についてはヒト観察研究を進めています。
また、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では、食事中のオメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の摂取比率(オメガ6/オメガ3比)として「4」が示されていました。一方、国際的な脂質栄養に関する研究会では「4未満」が提唱されています。
こうした背景を踏まえ、守口先生はオメガ6/オメガ3比について「2〜4」を一つの目安として推奨しています。
オメガ3脂肪酸の摂取量だけでは、実際の体内状態を十分に把握できるとは限りません。オメガ3指標が注目される背景には、生体内での脂肪酸代謝や組織ごとの特性が関係しています。ここでは、摂取量と体内状態の違いや、長期的な栄養評価におけるオメガ3指標の意義について解説いただきました。
これまでの守口先生らの研究では、オメガ3脂肪酸は前述の循環器系疾患だけでなく、乳幼児期の脳の成長発達、免疫反応、皮膚疾患、ドライアイなどを含む視覚機能、成熟期の筋肉の炎症を含む筋疲労、糖尿病や循環器系に関わる生活習慣病、壮年期以降の脳機能、筋委縮、さらには周産期の男女の生殖機能、母体の気分障害など、さまざまなライフステージにおけるオメガ3脂肪酸と健康課題との関連が分かっています。
こうした関連を理解するうえで重要なのが、各組織における細胞の代謝回転の違いです。
これらに関わる主要臓器の細胞の多くは日常的に入れ替わっていますが、その期間は組織ごとに異なります。例えば、消化管(胃・小腸・大腸)は3〜10日、皮膚は3〜4週間、筋肉は数か月、骨組織では2〜10年程度とされています。
一方、脳組織や心筋、網膜などは細胞の入れ替わりがほとんどありません。そのため、生体内を循環する脂肪酸との置換によって脂肪酸組成が変化すると考えられており、代謝回転の速い組織と比較すると、機能性の発現にはより長い時間を要すると考えられています。
オメガ3指標の特徴の一つは、摂取量だけでは把握しにくい個人差を可視化できる点です。守口先生は、こうした「見える化」が行動変容につながる可能性にも注目しています。
守口先生らが実施したモニター調査では、赤血球膜中のEPA+DHA割合(オメガ3指標)が8%以上であった対象者は12%程度でした。
また、オメガ6/オメガ3比については、「4未満」の対象者は約6割と比較的良好な結果が得られた一方で、「2未満」の対象者は全体の2%未満にとどまりました。
これらの結果から、国内における食事摂取の脂肪バランスには改善の余地がある可能性が示唆されています。
守口先生は、自身の脂肪酸バランスが数値として可視化「見える化」されることで、その後3〜4か月間の食生活改善への意識向上につながると考えています。
実際に、魚食回数を増やしたりオメガ3脂肪酸を含むサプリメントの摂取を開始した後、数か月で数値の改善が確認された事例もみられています。
オメガ3指標は、個人の栄養評価だけでなく、研究開発や製品評価への活用も期待されています。
守口先生は、サプリメントの継続利用において「服用感」が重要な要素の一つであると考えています。しかし、オメガ3脂肪酸は予防的な観点から摂取されることが多く、摂取による変化を日常生活の中で実感しにくいケースも少なくありません。
そのため、自身の脂肪酸バランスを見える化できることは、疾患リスクの低減となる新たな「服用感」、「達成感」につながる可能性があると考えています。
また研究面では、見える化できる検査キットでオメガ3指標を活用したヒト観察研究や介入試験への応用も期待されています。
一般的に採血は医療機関で実施されますが、自宅で採血できるツールを活用することで、幅広い対象者を募集できる可能性があると考えています。
オメガ3指標を活用するためには、測定方法や評価項目を理解することも重要です。ここでは、守口先生が開発に携わった測定サービスを例に、赤血球膜脂肪酸分析の考え方と評価指標について解説いただきました。
米国で実用化されている赤血球膜自己採血による脂肪酸分析サービスでは、血液を濾紙に滴下して乾燥させた血痕サンプルを用い、その脂肪酸組成をガスクロマトグラフィー(GC)で分析しています。
血漿中脂肪酸の影響を補正するため、鮮血由来の赤血球膜中EPA+DHA割合と、乾燥血液サンプル中のEPA+DHA割合との回帰分析から得られたアルゴリズムを用いて、オメガ3指標の評価を行っています。
一方、守口先生が開発に携わった「食生活あぶらの通信簿®」では、特殊濾紙を用いて滴下した血液から赤血球と血漿を分離し、赤血球部分(赤血球膜)の脂肪酸組成を分析します。
そのため、血漿由来の影響、すなわち直近の食事による影響を考慮する必要がほとんどありません。
評価項目としては、欧米で実施されている脂肪酸分析と同様に、各種脂肪酸に加え、EPA+DHA%(オメガ3指標)、オメガ6/オメガ3比などを算出しています。
さらに、循環器系との関連が報告されているARA/EPA比を「さらさら指数」、脳組織を中心とした神経系組織との関連が知られるARA/DHA比を「うっかり指数」として評価しています。
オメガ3指標の活用は、研究や製品開発にとどまらず、生活者の健康意識向上にもつながる可能性があります。最後に、守口先生が考える今後の展望について伺いました。
「今後、健康に関わる「オイルリテラシー」への理解が進み、一人ひとりが自身の食生活を見直すきっかけになることを期待しています。また、その取り組みを研究者や産業界が支援することで、個人が自ら健康を意識する生活を行えるような能力を築いてほしいと願っています。」
オメガ3脂肪酸の研究や製品開発においては、摂取量のみを評価するのではなく、体内への取り込みや組織への反映を含めて評価する重要性が高まっています。オメガ3指標は、その評価を支えるバイオマーカーの一つとして、今後さらなる活用が期待されます。
守口 徹 先生
麻布大学 名誉教授/株式会社食機能探索研究所 BABILON 代表取締役。国内外の研究機関で脂肪酸と脳機能の研究に従事。2008年から2024年にかけて麻布大学で脂質の機能性の研究を行い、「あぶら」についての研究と発信を行ってきた。2024年4月に麻布大学発ベンチャーを設立。
オメガ3指標の測定について
守口徹先生が開発に携わったオメガ3指標(赤血球膜EPA+DHA%)測定キット「食生活あぶらの通信簿®」では、数滴の血液から赤血球膜中の脂肪酸を測定することで、オメガ3指標をはじめ、オメガ6/3比やARA/EPA比などの指標を評価することができます。 栄養状態の評価はもちろん、介入評価や研究用途など、さまざまな活用が期待されています。
オメガ3指標測定キット「食生活あぶらの通信簿®」の詳細はこちら
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アーケル・バイオマリンは、クリルオイル由来のオメガ3原料をはじめとする、持続可能な海洋由来の素材を提供しています。 当社が長年培ってきた海洋由来原料の開発やサステナブルな調達の知見を活かし、ヘルスケア分野における製品開発や素材活用をサポートいたします。
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