オメガ3(DHA・EPA)の安定調達に向けた5つの戦略観点

魚油の供給をめぐる厳しい状況が明らかになるなか、今、ブランド各社に求められているのは、今後どのように対応していくかを考えることです。
ペルーでは2026年の第1漁期(シーズンI)が予定より早く終了し、ヒト向け栄養用途に適した粗魚油の供給量は、通常年と比べて大幅に減少しています。さらに、エルニーニョ現象の影響が継続することが懸念され、今後の供給見通しには不確実性が残っています。
オメガ3(EPA・DHA)を扱うブランドやメーカーにとって、今後は供給不足の背景を理解した上で、必要な原料を確保し、自社の調達リスクを管理するとともに、供給環境の変化に対応できる製品ポートフォリオを構築することが重要です。
本記事では、こうした課題に対応するために、今から取り組める5つの戦略観点を紹介します。
オメガ3原料の調達リスクを把握するには、まず、原料がどこで生産され、どのような供給網を通じて調達されているのかを確認する必要があります。 魚油の供給網は、ブランドと直接取引する原料サプライヤーだけを見ても、その全体像を把握できません。複数のサプライヤーと取引していても、実際には同じ漁業資源や粗魚油の供給源に依存しているケースがあるためです。
世界のヒト向け栄養市場で使用される粗魚油の約50%は、ペルー由来です。そのため、取引先のサプライヤーを複数確保していても、原料の供給源そのものが分散されているとは限りません。
オメガ3(DHA・EPA)供給の全体像を理解するには、魚油が生産される仕組みも知っておく必要があります。 魚油は魚粉の生産とともに得られる副産物であり、カタクチイワシは主に魚粉や魚油の原料として漁獲されます。また、原料魚1トンから得られる魚油の量は、生物学的条件や環境条件によって大きく変わります。
エルニーニョ現象による影響は、魚の漁獲量だけにとどまりません。漁獲した魚から生産できる魚油の回収量(歩留まり)も変動するため、漁獲状況だけでは魚油の供給量を十分に予測できないのです。
2026年のペルーの状況は、これらの要因が重なることで、魚油の供給に大きな影響が及ぶことを示しています。
2026年のペルーの状況は、これらの要因が重なることで、魚油の供給に大きな影響が及ぶことを示しています。
- 第1漁期(シーズンI)の漁獲枠は、約300万トンから190万トンへと36%削減されました。
- 削減後の漁獲枠のうち、実際に水揚げされたのは約4分の1にとどまりました。
- 魚油の回収量(歩留まり)も低下し、通常の漁期には約4%だったものが、2%未満となりました。
- これらの要因が重なり、ヒト向け栄養用途に適した粗魚油の供給量は大幅に減少しました。
サプライヤーに確認するポイント
- 粗魚油はどこを供給源としているのか?
- 現時点で、実際に確保している在庫はどの程度あるのか?
- 契約済みの数量のうち、今後の生産に依存しているものはどの程度あるのか?
- エルニーニョ現象の影響でペルーの第2漁期(シーズンII)が開かれなかった場合、どのような対応を想定しているのか?
年内後半の購入注文や供給契約が確定していれば、一定の供給見通しは立てられます。しかし、契約が成立していても、必要な粗魚油がすでに生産・確保されているとは限りません。契約の存在だけで、実際の納入まで保証されるわけではない点にも注意が必要です。
また、自社の調達リスクを把握するには、原料の供給源だけでなく、製品に含まれるEPA・DHAの濃度にも目を向ける必要があります。 EPA・DHA濃度の高い製品ほど、完成品1kgあたりに必要な粗魚油の量は多くなります。そのため、高濃度のEPA・DHA製品への依存度が高い場合、粗魚油の供給不足や価格上昇による影響も大きくなる可能性があります。
実践ポイント:製品ごとの調達リスクを把握する
オメガ3製品を、原料の供給源、EPA・DHA濃度、実際に確保できている在庫量の観点から確認します。どの製品が供給不足や価格上昇の影響を受けやすいのか、また、その影響がどの程度及ぶ可能性があるのかを把握することが重要です。
EPA・DHAの供給源は、魚油だけではありません。特定の魚種や地域、生産方式に過度に依存すると、供給が不安定になった際の影響が大きくなり、価格変動のリスクも高まります。
ブランドの方向性や既存の製品構成に応じて、魚油を補完する原料としてクリルオイルや藻類由来オイルなどがあります。適切に(持続性をもって)管理された漁業に由来する、ほかの海洋由来オメガ3脂肪酸も選択肢の一つです。
原料によって、コスト構造や濃度、剤形、栄養面での特徴、消費者への訴求ポイントは異なります。魚油を全面的に置き換えるのではなく、製品ごとに異なる原料を組み合わせ、特定の供給源に依存しすぎない製品構成を目指すことが重要と考えられます。
原料の選択肢を広げるうえでは、代替原料に対する生活者の受容性(アクセプタンス)も重要なポイントです。
- アーケル・バイオマリンの消費者調査(グローバル)では、世界の魚油製品利用者の約30%がクリルオイルへの切り替えを検討すると回答しています。この割合は米国では44%、中国では45%に上ります。
- さらに、2026年に実施した調査では、消費者が支持しているのは魚油そのものというより、オメガ3製品であることが示されています。現在利用している魚油製品が入手できなくなった場合でも、オメガ3製品の利用自体をやめると回答した人は、わずか2%でした。
実践ポイント:調達先の分散を検討する
オメガ3製品のうち、一定の規模を占める製品群について、ペルー産カタクチイワシ由来の魚油に依存せずに供給できる体制を構築できるか、検討することが重要です。
供給がひっ迫すると、代替原料を探して価格を比較することに目が向きがちです。しかし、原料1kgあたり、あるいはEPA・DHA 1gあたりのコストだけでは、その原料の価値を十分に評価できません。 製品の処方(配合)にどのような特長を加えられるのか、パッケージ上でどのような訴求が可能になるのか、生活者にどのような使用体験を提供できるのか。こうした点も含めて、原料を総合的に評価する必要があります。
例えば、クリルオイルには、リン脂質、EPA・DHA、ホスファチジルコリンとして含まれるコリン、アスタキサンチンという4つの成分が含まれています。このうち、リン脂質、EPA・DHA、コリンは、クリルオイルに特有の天然由来の分子構造として構成しています。そのため、魚油に個々の成分を加えるだけでは、クリルオイルが持つ組み合わせをそのまま再現することはできません。
原料の価値を考える際には、含まれる成分だけでなく、体内でどのように利用されるかも重要です。 EPA・DHAはまず消化・吸収され、血流を通じて全身へ運ばれます。さらに、細胞膜にどの程度取り込まれるかも、体内での利用を考えるうえで重要なポイントです。細胞膜に取り込まれたオメガ3は、膜の構造や流動性、シグナル伝達など、さまざまな生理機能に関わっています。
細胞膜への取り込みを評価する指標の一つが、「オメガ3指数(Omega-3 Index)」です。一般に、赤血球膜に含まれるEPA・DHAの割合を示す指標であり、体内でのオメガ3の状態を把握するために用いられます。
消費者のブランド満足度を左右する要素
アーケル・バイオマリンが米国のオメガ3製品利用者2,842人を対象に実施した調査では、ブランド満足度の68%に、次の4つの要素が関わっていました。
- 魚のような後味がない、高品質な原料を使用している、飲み込みやすい、価格に見合った価値がある
- オメガ3含有量の高さは5位で、ブランド満足度への寄与は9.4%でした。
- この結果から、消費者はオメガ3製品を選ぶ際、EPA・DHAの含有量だけでなく、飲みやすさや原料の品質、価格に見合う価値なども重視していることがうかがえます。
研究では、EPA・DHAを同量摂取した場合、クリルオイルは効率よく吸収され、魚油と比べて細胞膜への取り込み量が多いことが示されています。原文では、この違いはクリルオイルに含まれるリン脂質結合型のオメガ3と関連づけられています。
原料の価値は、コストだけでは測れません。 製品全体の処方にどのような特長をもたらすのか、パッケージや販促コミュニケーションで何を伝えられるのか、使用感やブランドの差別化にどうつながるのか。生活者に提供できる価値も含めて評価することが大切です。
実践ポイント:完成品としてのコストと価値を比較する
代替となるオメガ3原料を評価する際は、原料1kgあたりやEPA・DHA 1gあたりのコストだけで判断せず、完成品全体のコスト構造と、消費者に提供できる価値を比較することが重要です。
現在の魚油供給の混乱はいずれ落ち着くと考えられますが、それによって供給をめぐる課題が解消するとは限りません。世界ではオメガ3製品への需要が供給を上回る状況が続いており、今後も供給リスクが残る可能性があります。
オメガ3の供給量は、生物学的なサイクルや気候条件、漁獲枠、魚油の歩留まりに加え、養殖、サプリメント、食品、医薬品など、さまざまな用途からの需要にも左右されます。
2023年のエルニーニョ現象の際にも、サプリメント業界は同様の供給逼迫に直面しました。供給が不安定になるたびに個別の問題として対処するのではなく、今回の状況を、自社のオメガ3製品の構成を中長期的な視点から見直す機会と捉えることができます。
CORE|コア
従来型の魚油を使用した主力製品
PREMIUM|プレミアム
リン脂質結合型クリルオイルなど、独自の特長を持つ海洋由来オメガ3製品
ALTERNATIVE|代替・分散
藻類由来オメガ3など、従来の魚油供給に依存しない原料を使用した製品
実践ポイント:供給リスクの分散と製品戦略を両立する
特定の魚種、地域、生産方式への依存を抑えながら、生活者に伝わりやすい製品特長を打ち出し、市場セグメントや価格帯に応じた差別化を図ることが、供給リスクに強い製品ポートフォリオの構築につながります。
供給環境が変化した際、ブランドが迅速に対応できない理由は、必ずしも代替原料が見つからないことにあるわけではありません。多くの場合、供給不足が続く期間内には解消しにくい、2つの課題が対応の妨げとなります。表示変更の制約と、原料の採用・承認にかかる時間です。
2023年の供給混乱後、表示にあらかじめ変更の余地を持たせていたブランドは、代替原料への切り替えをより迅速に進めることができました。 例えば、複数の原料供給源を認める表示にしていたり、EPAとDHAそれぞれの含有量を固定して表示するのではなく、両者を合わせたオメガ3含有量を表示していたりするケースです。
供給不足が起きてから慌てて対応することのないよう、今のうちに自社製品の表示内容を点検しておくことが重要です。表示の根拠が特定の原料に依存していないか、どのような認証を表示しているか、代替候補の原料がどの認証を取得しているかを確認します。さらに、パッケージデザインの変更や小売店への通知に、実際どの程度の期間が必要なのかも把握しておく必要があります。
もう一つの課題は、原料の採用・承認にかかる時間です。 代替原料を入手できても、製品に導入するまでには、サプライヤー監査、規格の確認、関連資料の審査、試験生産、パッケージデザインの確認、小売店への通知など、複数の工程を経る必要があります。
この過程では、サプライヤーが必要な資料をどの程度そろえているかも、所要期間を左右します。必要な資料一式に加え、原料の根拠となるデータや安定性データがそろい、規制対応の実績があるサプライヤーであれば、原料の評価・承認にかかる時間を大幅に短縮できる可能性があります。
代替候補のサプライヤーには、必要な資料がそろっているかを事前に確認し、供給不足が起きる前に、ほかの原料供給源についても評価を進めておくことが重要です。
実践ポイント:ラベル表示内容と原料採用までの期間を事前に確認する
供給不足が発生してから、表示変更や原料の採用に必要な期間が対応の大きな障壁とならないよう、表示内容の変更余地と、原料の評価・承認にかかる期間を今のうちに確認しておきます。
Superba Krill®は、ホスファチジルコリンとして存在するリン脂質、EPA・DHA、コリンと、アスタキサンチンを含むクリルオイルです。EPA・DHAの供給源となるだけでなく、これらの成分の組み合わせ、分子構造を生かした価値提供ができます。
パッケージで伝えられる情報の幅
Superba Krill®は、EPA・DHAと心機能に関するEFSA(欧州食品安全機関)の承認済みヘルスクレームに加え、コリンについても、ホモシステイン代謝、脂質代謝、肝機能の維持に関するヘルスクレームに対応しています。 また、米国、カナダ、オーストラリア、韓国、日本などでは、各地域の規制上の位置づけに応じて、原料の特長を訴求できる場合があります。
生活者に受け入れられる使用感
クリルオイルは、従来のオメガ3サプリメントで気になることのある魚臭い後味や、摂取後の逆流感(臭いもどり)が気になる消費者にとって、代替となる選択肢です。リン脂質結合型のオメガ3を含むことも、その特長の一つです。
天然に含まれるアスタキサンチン
クリルオイルにはアスタキサンチンが天然に含まれています。アスタキサンチンは抗酸化物質として、オイルの酸化を抑え、品質の維持に寄与します。
60報を超えるヒト臨床研究
Superba Krill®については、さまざまな健康分野を対象とした60報を超えるヒト臨床研究が公表されています。原料に関連する研究知見が蓄積されており、製品開発や原料選定の際に参考となる科学的エビデンスが得られています。
厳格な資源管理とMSC認証
南極のクリル漁業は、世界でも特に厳格な管理体制のもとで行われています。Superba Krill®は2010年からMSC認証を取得しています。

藻由来オメガ3オイル「Revervia®」は、トリグリセリド型でDHA・EPAを天然に高い濃度で含み、追加の濃縮・合成工程を行うことなく、最大60%のオメガ3を実現します。
陸上の発酵設備で生産されるため、天然魚の漁獲に依存しない供給源となります。製品設計の幅を広げるとともに、オメガ3の需要拡大に対応するうえでも、調達先を分散する選択肢となります。
安定した供給と調達先の分散に貢献
Revervia®は、陸上の管理された発酵設備で生産されるため、天然魚の漁獲に依存せずにDHA・EPAを供給できます。生産規模の拡大にも対応できることから、オメガ3原料の調達先を分散し、需要の拡大に対応するための選択肢となります。
天然由来の高いDHA・EPA含有率
Revervia®は、トリグリセリド型のDHA・EPAを天然に高い濃度で含んでいます。そのため、ほかの栄養成分を組み合わせた処方など、製品設計の幅を広げることができます。
また、追加の濃縮工程を経ることなく、比較的小型で飲みやすいカプセルにも、製品設計に応じた量のオメガ3を配合できます。
新たな製品設計と市場ポジションの可能性
Revervia®は、魚を原料としない藻類由来のDHA・EPA原料です。従来の海洋由来オメガ3とは異なる原料を求めるブランドにとって、新たな製品設計や市場での差別化を検討する際の選択肢となります。
DHA・EPAに関する既存の研究知見を活用
Revervia®は、魚油にも天然に含まれるトリグリセリド型でDHA・EPAを供給します。そのため、藻類由来の原料でありながら、DHA・EPAについてこれまでに蓄積されてきた科学的知見や、健康との関係に関する研究成果を踏まえた製品開発が可能です。
今回のペルーの原料環境が示しているのは、魚油から別の原料へ全面的に切り替えるべきだということではないと思われます。魚油は今後も、グローバルなオメガ3市場を支える重要な原料であり続けると推測されます。一方で、供給源が一部に集中していると、その供給に問題が生じた際に大きな影響が及ぶおそれがあります。
自社がどの原料にどの程度依存しているのかを正しく把握し、EPA・DHAの供給源を分散させるとともに、消費者にとっての価値や製品全体の特長を踏まえて原料を評価することが重要です。こうした取り組みを進めることで、目の前の供給混乱への対応力を高めるだけでなく、今後の市場環境の変化にも備えた製品ポートフォリオを構築できます。
1.主力製品(SKU: Stock Keeping Unit)に使用している粗魚油は、どこから調達しているか?
2.今後必要となる原料のうち、すでに確保できている量と、今後の生産に依存している量はそれぞれどの程度か?
3.粗魚油の供給不足や、EPA・DHA濃度に起因するコスト上昇の影響を受けやすい製品はどれか?
4.ペルー産カタクチイワシ由来の魚油に依存せずに供給できる製品を、どの程度確保できるか?
5.供給リスクへの対策を進めるうえで、どのような課題や障壁があるか?
アーケル・バイオマリンでは、原料調達や製品開発に関する課題を踏まえながら、供給リスクの分散に向けた選択肢をご紹介しています。
今後の調達戦略や製品ポートフォリオを検討する際は、ぜひ当社にご相談ください。
本件に関するお問合せ先
アーケル・バイオマリン・ジャパン株式会社(担当:北澤)
Tel: 03-6894-4156
e-mail: info.japan@akerbiomarine.com













